当時、宮城県気仙沼市では583名の死亡が確認されていました。
全国から葬祭業従事者が集まり、ご遺体の搬送・安置・ドライアイス処置等の人的支援活動が行われました。
弊社は、人的支援活動を行う葬祭業従事者への、感染防御物品の調達及び遺体取扱時における感染予防の指導をさせていただきました。
支援活動事務局と何度も活動内容の確認や準備のための打ち合わせを行いました。
ご遺体の状態を想定して、感染防御物品を含め、人的支援活動に必要な物品の検討から始めました。
寒い時期とはいえ、火葬場が被害を受けているため、ご遺体の腐敗の進行を予測しながら、感染防御物品を準備しました。
ご遺体の取扱いには、接触感染予防として、ディスポーザブルグローブの着用が必須です。
災害時は、ラテック製品のディスポーザブルグローブでは負荷がかかると容易に破損する恐れがあるので、ニトリル製グローブを用意しました。また、支援活動中は、手洗いができないことを予測して、ウエットティッシュを用意しました。環境汚染防止のため、使用済みグローブ等の廃棄用としてプラスチック袋を準備しました。
その他、宿泊施設内での手洗用液体石けんやペーパータオル、軍手、白手袋、廃棄物処理用(使用済みペーパータオル、タオル等の廃棄用)の大型プラスチック袋等、すべて1人分ずつ滞在日数分を準備しました。(当時、東京都内では、大型スーパーから一斉に水やペーパータオル等が姿を消すありさまでした。)
そのほか出動する方々には、体液・血液等の跳びはね(飛沫感染)を予測して、ナイロンジャンパーが支給されました。長靴や衣類は個人に準備いただきました。
震災から1ヶ月後の4月19日、第1班が出動しました。 震災発生から本支援の出動までに、すでに1ヶ月以上がたっていました。
第1班の出動当日は、安全に援助活動を行っていただけるよう、災害時における感染予防対策を、メモワールプラザソシア(新横浜)にて、ガイダンスさせていただきました。
安全な活動をしていただくために、『災害時における感染予防対策マニュアル』資料を作成し、①ディスポーザブルグローブの外し方、②ディスポーザブルグローブの交換のタイミング、②手洗いについて等、実践に不可欠な内容を、実演を交えお話しさせていただきました。
本支援は、『遺体に携わる人たちのための 感染予防対策及び遺体の管理』が、支援活動事務局の目にとまったことが、きっかけでした。御巣鷹山航空機墜落事故、阪神大震災の時は、感染予防対策など安全策に対する考え方すらありませんでした。
弊社は、人的援助の最終段階(最も取扱いが困難な状況)の要請に備え、高分子吸収剤・ガウン等を準 備して待機しておりましたが、自治体より、支援活動終了の連絡が入りましたため、出動には至りませ んでした。
震災発生直後より、日本中で義援金が集まり、世界各国から支援部隊が来られる中、何か自分にできる 事を協力させていただきたいと願っておりました。支援活動事務局から、被災地への人的援助に協力要 請の声をかけていただき、私自身が救われた気持ちでした。
支援活動に参加させていただきましたことを心から感謝申し上げます。
反省点としましては、
・柩を安置するための垂木の必要性を考えていたにも関わらず、持参できなかった。
・取扱い困難状況の予測をしていたにも関わらず、ガウン等の感染防御物品が間に合わなかった。
・困難状況での出動ができなかった。
など、多々悔やまれる点がございます。このような悲惨な災害が起こらないことを願いますが、危機管 理としまして、今後に活かさなければと心に誓いました。
葬祭業は、災害発生時には、常に人的援助を続けて参りました。民間人として、葬祭業にしか出来ない活動に感謝の気持ちでいっぱいです。
支援活動のみならず、ご葬儀が出来ないご家族に、前机を用意しお線香をあげていただく配慮をしてく ださったと、現地の活動の様子を聞かせていただきました。
当時、25%の身元不明の方々が土葬されま した。そのような状況の中、ご家族にとってお線香をあげられたことが、どんなに慰めになったことで しょう!
人として、業界人として、改めて「死者の尊厳」を考える時間を頂戴しました。 支援活動に志願し出動された皆様が、誰ひとり怪我もせず、安全に活動を終えられ安堵いたしました。 現地で活動をされた皆様、関係者様に心から感謝申し上げます。
本災害によりご逝去されました方々のご冥福を謹んでお祈り申し上げます。
また、深い悲しみにあるご家族や関係者様に心よりお悔やみ申し上げます。
文:橋本佐栄子
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