美粧衛生師が、『月刊住職』に掲載されました。掲載記事をご紹介します。
『月刊住職』株式会社興山舎 2014年6月号 寺院住職実務情報誌 No.187
遺体に携わる職業で比較的新しいのが、美粧衛生師だ。美粧衛生師は、エル・プランナー代表の橋本佐栄子氏が昨年商標登録した名称で、日本でも橋本氏を含め現在6名しかいない。ただ、名称は最近できたものだが、仕事自体は20年以上前から続けられ、1万件以上の遺体処置をしてきている。
美粧衛生師は、葬祭業者を対象とした資格で、6名は橋本氏とその後継者で看護師の橋本友希氏、それに葬祭業者である。資格規定は、①医療に準じ感染予防対策を実施すること、②衛生的処置を習得したもの、③穏やかな様子に顔を整える技術を習得したもの、④遺族の要望をくみ取ること、としている。
納棺師や湯灌師と異なる点は、儀式の提供を主体とする位置づけではなく、遺族に寄り添って医学的知識を持ったケアの専門家という立場である。
「葬儀者さんが美粧衛生師として常駐していると、ご遺族にとっては、出血などの身体トラブルを未然に防ぐことができ、感染症や損傷、腐敗の進行といったすでに身体トラブルを抱えたケースでも、安心して迅速に適切なケアが受けられるメリットがあります」と橋本氏は話す。
実際にケアを行う際は、直接遺族に、どんな処置をするかや、身体トラブルの説明をしてから衛生的処置(医療器具抜去後の手当て、創傷の手当て、排泄物・嘔吐物の処理、鼻腔・口腔の詰めもの、口腔ケア、清拭などの一連の死後処置)を行い、その後、要望に基づいて顔を整え(穏やかな顔立ちに整える表情の修正、閉口閉眼、髭・産毛剃り、化粧など)、冷却管理業務を行う。その他、ヘアメイクや着付け、納棺に携わることもある。
ただ、これまで1万件以上処置してきている橋本氏でも、遺族の要望を汲み取ることは難しいという。
「腐敗や損傷が強度のケースは、化粧の限界があります。それでもどうにかしてくれと言われることがあります。ご遺族は、技術的にはこれ以上できないことはわかっているけど、でも、できるだけ綺麗な姿で送ってあげたいのだろう。じゃあ、お顔の周りに花を飾らせてもらったらどうか、綺麗なところだけをお見せするのはどうか、というように、言葉にならないご遺族の願いや、ご遺族から出てくる会話の中で色々と察して、故人様とご遺族との対面・別れに注目してご拝顔のシーンを提案させていただくのですが、なかなか意向を汲み取るのが難しいです」
美粧衛生の役割については、「5か月目の胎児の処置に呼ばれたことがありました。私にできることは、砕いたドライアイスで冷却することしかできませんでしたが、『この子は何で生まれてきたんだろう』と嘆くお母様と一緒に、お棺に小さな花びらを入れて差し上げて火葬に立ち会いました。
ご収骨を終えた時、お母様は『この子の分まで次は丈夫な子を産みます』と言われました。そんな前を向いて生きていこうとする感情がご自身の中から沸き上がるように、ご遺族に寄り添うこと。それも私たちの仕事だと思っています」と話す。
父の息がある時に「ありがとう」と伝えたかった…
昨年父が他界しました。
在宅医療を受け、母が心を込めて介護し自宅で看取りました。
私が危篤の知らせを受けた時は、すでに虫の息でした。
母と弟に手を握られ、父は静かに息を引き取りました。
父と最後に気持ちを交わせたのは、亡くなる1週間前でした。
「この4~5日は、水分も入らないの」と母が言っていたにもかかわらず、私が作った流動食の夕飯を残さず食べてくれました。
「お父さん、おいしい?」と声をかけながら1匙ずつ口元へ運ぶと、歯のない口を大きく開けて飲み込んでくれました。
その時のことを想い出すと、厳しく子供を褒めることが無かった父が、私に遺してくれた最期の親心のように思えてなりません。
遠く離れているので、会いに行けず世話もできなかった、親孝行ができなかった、と自責を遺す娘へ、「私が作ったご飯を食べてくれた」ことで、幼子のように食事をする姿に私の心は慰められました。
「お母さん、お父さんに着せてあげたい服ある?」と尋ねると、
「お父さんは、人前に出るときはいつもきちんとしてた人だから、スーツを着せてほしい」と言いました。母は、私がいつも仕事先でお会いするご遺族そのままでした。
母がネクタイを選び、弟と二人でスーツを着せました。
弟は、私が死後硬直を弛緩させている様子を見て、
「固まってるのに、できるんか?」と、驚いた様子でした。
「死後硬直は、筋肉に発現するから、関節を屈伸運動ができる方向に屈伸すると死後硬直は弛緩するのよ」と、説明しました。
3日の遺体安置の間、私は室温を計りドライアイスを装着し冷却管理をしながら、遺族の自分と美粧衛生師の自分が同居していることに、夢と現実が交差したかのような不思議な感覚を覚えました。
母にとって、父の亡骸の看取りの時間はどんな思いであろうかと、連れ合いを亡くした一人の未亡人の心情を汲み取ることに努め母を支えました。
無事に葬儀を終え、父の死は、美粧衛生師の仕事をさせていただく私にとって、『遺族の心情に寄り添う』貴重な体験となりました。父の死から教えられたこと感じたことを糧に、これからも、ご遺族が必要とされるとき、ご葬儀の裏方となってお役に立てる美粧衛生師であり続けたいと思いました。
謹んでお手紙を紹介させていただきます。
葬祭業者様から 神奈川県 I 様
先日は大変お世話になり有難うございました。お陰様で100名近く想像以上の会葬者の方のご出席があり、故人様のご友人の皆様にも無事、最期のお別れをしていただくことができました。橋本さんからお電話を頂戴した時は、(腐敗の進行に)正直驚きましたが、ご自宅の室温の高さや報告は受けていたものの、二日間自分の目で見ていないという不安を感じました。その後適切な判断と処置をしていただき本当に感謝しています。今回のことで、特に「安置する環境での判断」をわかっているつもりではいましたが、改めて勉強しました。 今度はメイクアップの方でご相談させていただきたいと思います。その時は是非宜しくお願いいたします。
I様、ご丁寧なお手紙を頂戴し有難うございました。その後ご縁をいただき遺体感染管理士認定資格養成講座において冷却管理を学んでいただきました。遺体感染管理士2種認定資格を取得されおめでとうございます。感染予防、冷却管理上お困りのことなどございましたら何なりとご相談下さいませ。これからも、どうぞよろしくお願い申し上げます。
ご遺族 M 様 東京都
前略 母が桜の花を追うように旅立って1か月が経ちました。斎場には毎日会いに行きましたが、橋本さんが見ていて下さったおかげで、いつも眠っているような穏やかな顔をしていました。通夜祭、葬場祭の時は薄く口紅もつけていただき、本当に綺麗でした。橋本さんが家にいらっしゃって、母を清めて下さった時、「お母様、本当に大事にされていたんですね」と言って下さって、とても嬉しかったです。朝晩のケアは私がしていましたが、日中はヘルパーさんたちが体位交換などでよく看てくれました。5年間ベッドに寝ていたのに最期まで床ずれも肌のトラブルもありませんでした。これも主治医の先生や看護師さん、ケアマネ―ジャ―さん、ヘルパーさんたちが支えてくれたおかげです。そして最後に、平野屋さんや橋本さんに出会ってお世話になりました。本当にありがとうございました。
ご遺族 N 様 東京都
主人の旅立ちの支度を綺麗に整えてくださいまして本当に有難うございました。皆さんに眠っている様だと言われました。苦しみのない穏やかな主人の顔が、私にとって何よりの慰めになりました。有難うございました。心から御礼を申し上げたく手紙を書きました。
ご遺族 M 様 東京都
この度は、連日に渡り亡き妻にお付き合い下さり、本当にありがとうございます。亡くなった間際の容姿は、最期まで見届けた私ですら愕然とするもので、葬儀の際に妻が「自分のような姿を見られるのを苦しむのでは?」と悩んでおりました。今回アイテン福島屋様のお取り計らいでご紹介いただき、母や家族の心の苦しみを取り除いていただき、感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。大変なお仕事に就かれ、ご苦労や辛いことも多いと思われます。我々と同様に苦しんでいる遺された方々の気持ちを少しでも和らげお見送りするお手伝いに、今後も頑張っていただければと思います。本当にどうもありがとうございました。