ふと、以前看護師の方から聞かせていただいたこぼれた話を思い出しました。
「私が働いている病院では、死後ケアを早くするようせかされます」「死後ケアは30分以内に終わらせるというのが暗黙の了解になっています」「死後ケアの時間が30分を過ぎるといやみを言われます」と言った死後ケア業務の所要時間に対する現場の声です。
もちろん、ご遺族から「丁寧にしていただいた」という感謝の言葉を沢山伺ってきましたので、すべての病院がそうだというわけではありません。誤解のないようにお願いします。
死後ケアの所要時間には、人それぞれの考え方があると思います。
もし、ご自身と異なる考え方の人とケアをしなければならない状況に遭遇した時、納得できないことへの腹立たしだけで終わるのではなく、時間を見つけて、なぜそう考えるのか、どのような方針で死後ケア業務を行えばよいのかを話し合っていただきたいと思います。
ケアを急ぐ理由の一つには、経営面や次の患者様が待っておられる、搬送車両が到着している、早く家に返してあげたいといった意見もあるでしょう。死後ケア業務がよくわからないといった意見があるかもしれません。 反対に、十分な最期の看護(死後ケア)をするためには時間が必要との考えの方にとっては、ご遺体の尊厳を守りたいための怒りや悲しみが沸き上がり、心が痛むのではないでしょうか。
理想論だけではいかないと思いますが、気がついた方から、患者様やご家族(ご遺体とご遺族)に不利益を与えないよう、正義と公平に努める義務(1)を踏まえ、真摯に時間をかけて死後ケア業務について話し合いの機会を作り議論していただけることを願っています。
多くの命が医療者の手に委ねられ、その多くが忙しい病棟の中で亡くなります。
患者・家族側の立場からすると、人の死が単なる日常業務の一つとして流されることほど悲しいことはありません。
死後ケアの手技だけではなく、患者様とご家族に対し、死後ケア業務を通して心のこもった関心を持つ方が増えることを願うとともに、私たち一人一人があらゆる場面において、命の尊さとご遺体の尊厳を次世代へと継承していかなければと改めて感じました。
※(1)医療倫理の四原則