私がお世話になりました葬祭業社は、わが国で初めてエンバーミング施設を開設した会社です。エンバーミングが施され、棺に納められたご遺体の姿は、衝撃的でした。常々ご拝顔させていただくご遺体は、大勢のご会葬者の目に触れるのは、お気の毒なご様子でしたから、臭気もなく美しくと穏やかなご様子に驚きました。
その後、葬祭業社を円満退職し、ご遺体の化粧を専門的に行う有限会社エル・プランナーを開業いたしました。それを知った実父は、激怒いたしました。父は現役時代公務員をしておりましたので、様々な公的機関とのつながりが多く、災害時や鉄道事故が発生すると現場へ駆けつけておりました。傷つき寸断されたご遺体を拾い搬送を手伝うこともあったそうです。ですから、私ごときが携わる職業ではないと、実態を知る父が反対するのは当然でした。
父が言うとおり、開業して葬儀社様に営業に行くと、「女に何ができる…ドライアイスが持てるのか」「女がご遺体に触れるのか」そんな言葉を行く先々で言われて、うなだれて帰る毎日が続きました。そのうち足しげく営業を続けているうちに、次第にご依頼をいただけるようになりました。当時は、化粧というより処置業務の毎日でした。絶え間なく処置業務をさせていただけたことが、何よりの勉強でした。今の私があるのは葬儀社様のおかげと感謝に堪えません。エル・プランナーは葬儀社様に育てられたのです。
一日の業務が終わると、法医学書を読みなおすのが日課でした。今日携わらせていただいたご遺体の状況の疑問を解決するのに法医学書は欠かせませんでした。特に末期(晩期)死体現象と言われる腐敗については、以前よりご遺族のために何とかしなければ、という想いが大変強かったものですから。病院からお帰りになられた翌日には、腐敗臭が起こっていました。お葬儀の頃には腐敗性変色が発現していました。中にはすでに手遅れで、腐敗ガスの発生によって膨張し人相の識別ができない状態の方がありました。それでも、ご遺体は多くのご会葬者の目に触れご家族はお別れをしておられました。なんと切なく悲しいことでしょう。
法医学書から知識を得て、冷却管理に取り組み始め、お取引先様のご協力を得て、本格的に冷却管理を実施し13年になります。今では、葬儀社様自らが冷却に関する知識と体験を通して、適切な冷却管理を実践してくださるようになりました。ご自宅安置の際には、室内温度を下げるためにエアコンを最低温度に設定する、日差しが入る部屋の場合は雨戸を閉める、ドライアイスの適切な使用方法・使用量、早期納棺、遺体保存用冷蔵庫の利用などによって、1週間後のご葬儀でも穏やかさを損なわず、ご遺族が安心してお別れができておられます。
「ご遺体の冷却管理」のコラムでは、ご遺族への冷却のご説明、腐敗予測について、葬儀社様との連携、ご遺体の状態に応じた管理法など、体験を交えてお話しさせていただきたいと思っています。お時間があります時に、是非お立ち寄りいただければ幸いに存じます。