ご遺体は、葬儀式場の遺体保存用冷蔵庫(以下冷蔵庫と記す)に安置されていました。葬儀式場は、死亡場所から車で20分ほどの所にあり、搬送後ただちに冷蔵庫に保管されたそうです。ご遺体は、浴衣を身につけシーツに包まれ、ステンレス製のトレーに安置されていました。腹部全体がすでに緑色に変色していました。体格が細いため、明らかに腐敗が進行している様子が外表から確認できました。保管から2日が経過していました。冷蔵庫は4℃に設定されていました。通夜・告別式は、2日後です。納棺は、通夜式当日に行われる予定です。
今回の事例は、学ぶ点がいくつかあります。
適切な対応には青文字を、改善した方が良い点は赤文字を使用します。
ご遺体は、葬儀式場の遺体保存用冷蔵庫(以下冷蔵庫と記す)に安置されていました。葬儀式場は、死亡場所から車で20分ほどの所にあり、搬送後ただちに冷蔵庫に保管されたそうです。ご遺体は、浴衣を身につけシーツに包まれ、ステンレス製のトレーに安置されていました。腹部全体がすでに緑色に変色していました。体格が細いため、明らかに腐敗が進行している様子が外表から確認できました。保管から2日が経過していました。冷蔵庫は4℃に設定されていました。通夜・告別式は、2日後です。納棺は、通夜式当日に行われる予定です。
■適切な対応について
搬送後ただちに、遺体保存用冷蔵庫に保管されたことは、搬送から4日後の通夜、5日後の告別式に備え、ご遺体の冷却管理上良い判断だと思います。冷蔵庫の設定温度は、4℃±1℃が望ましく、適切な温度で冷却されていました。
浴衣は、薄手ですから冷却に適しています。薄手の着衣は、身体が環境温度の影響を受けやすく、冷蔵庫保管の場合早く冷却できます。
冷蔵保管をする場合、納棺して保管する場合と棺に納めないで保管する場合があります。ステンレストレーでの保管は、納棺されている場合に比べ、体温が早く低下します。棺に納めた方が冷却には時間がかかります。
ただし、納棺した方が炭酸ガス効果によって、空気の供給が抑制されるため、腐敗の進行は遅くなります。納棺した場合のドライアイス効果については、また別の機会にお話ししたいと思います。
■改善した方が良い点について
腹部の緑色の変色は、腐敗性変色といわれる現象(末期又は晩期死体現象)です。
腐敗は、一般的には腹部の諸臓器から始まります。腹部が腐敗すると、腐敗臭が発生します。腐敗を起こす嫌気性菌(けんきせいきん)が血管を通って全身に広がります。やがて顔にも影響を及ぼします。
冷蔵保管の場合も、冷蔵庫だからといってドライアイスがいらないわけではありません。腹部にドライアイスを装着する必要があります。
ドライアイスの装着ですが、直接腹部に接触させて装着します。痩せた体格の場合は、腹部に直接当たる大きさに割るなどして装着します。腹部が大きい体格の場合は、多めにつけます。ドライアイスは、ドライパック(アイスパック)や脱脂綿に包まずに装着します。
紙おむつや着衣の上から、ドライパック等に包んでドライアイスを使用した場合は、腹部の腐敗を抑制するほどの急速な冷却ができないために、腐敗臭が発生し、腐敗性変色が現れます(腹部が大きい体格では、腐敗性変色は見えないことがあります)。
腐敗は、細菌の繁殖で起こります。細菌の繁殖は、5℃で抑制され0℃で停止します。腹部には、消化酵素を保有する諸臓器があるので、身体各所で最も早く腐敗が始まります。したがって腹部のドライアイスは、常時ドライパック等に包まず直接装着し、急速な冷却が望まれます。
■冷却への対処について
葬儀担当者にドライアイス5kgを用意していただき、ただちに腹部に装着しました。通夜式当日は、腐敗臭はなく顔や身体にも腐敗の影響は出ませんでした。納棺後、ドライアイスを、顔の両側と腹部に合計10kgを装着しました。初回の装着でいったん腹部が凍結したら、次からは凍結を維持するだけなので、着衣の上からドライパック等に包んで装着します。
※腐敗の進行は、個人差があります。ご遺体の冷却管理は、ご遺体自身の要因(体格・栄養状態・病気の有無・感染症の有無、死因など)と、環境の要因(気温、湿度、着衣の有無、空気の供給など)を考慮し、ご遺体に応じて、適切に行われることが望まれます。
《表記について》
ご納棺の「ご」、お顔の「お」、お体の「お」、敬称を省略して記載させていただきます。